カウボーイビーバップ 天国の扉

カウボーイビーバップ映画版。シャレオツハードボイルドSFアクション。ニヒルと痩せ我慢と自虐はハードボイルドに必須の条件だ。この作品は一つの到達点に達している。全編通底する洗練されたセリフ、魅力的なキャラクター、スタイリッシュなアクションに魅了され観客はただただ肩までハードボイルドに浸かればいい。少し角度が違えばスパイクは冴羽遼にフェイは香織にジェッドは海坊主に見えなくもないがけっして劇中で「100t」ハンマーが出てくることはない。なぜならこの作品はかっこいいを至上命題としセンスを最上の価値に置いているからだ。伝統や礼節を重んじながらも軽さを忘れない。さながら英国紳士のような鎌倉武士の食わねど高楊枝のような流浪人のプライドである。宇宙を股にかける賞金稼ぎと聞けば聞こえは良いがその実しがないフリーランスである。個人事業主のツラさはやったものにしか分からない。給料の額以上に世知辛い悲哀が滲む。コケにされた悲しみと踏み躙られた経験が顔に深いシワを刻む。自由ではあるがけっして楽な生き方ではない。だがそれを貫き通す意地が人が違えばただのチープなマンションポエムに陥りがちな歯の浮くようなセリフの数々に説得力を与えている。山寺宏一林原めぐみ石塚運昇の軽妙なやりとりは自分も仲間になりたいと思わせる人の暖かみを感じさせる。毒舌や悪口は辛い現実から気を逸らすための術なのかもしれない。何よりそれを許容してくれるこのチームが家族よりは奔放なこのチームの強みなのかもしれない。素晴らしい仕事。